RSGT2025に参加して考えたこと
はじめに
Regional Scrum Gathering Tokyo(RSGT)2025に参加してきました。 このイベントには昨年から興味があって、昨年はM2でしたので行けませんでした。M2の1月は私に限らず、佳境でしょう。昨年は現地参加チケット代が22000円と、一応手が出る価格でした。「来年こそは!」と思っていたのですが、今年は300%という脅威の値上げがありました。正直なところ、かなり悩みました。しかし、ありがたいことに経費申請が通り、晴れて初参加することができました。
私は新卒1年目のソフトウェアエンジニアです。大学院時代にAgileについて学修していた経験があり、現在は主にソフトウェア開発業務に従事しながら、チームのAgileな開発実践も支援していく立場にチャレンジしています。また、社内の「Make People Awesomeゼミ」というマネジメント系の勉強会にも所属しています。このゼミでの学びもあり、アジャイルやスクラムについてより実践的な知見を得たいと考えていました。
今回のRSGTでは、「チームに持ち帰れるものは何か」という視点でセッションを選択しました。特に私自身が昨年スプリントレトロスペクティブをチームに導入しましたので、それをより良いものにしたいという思いがありました。
参加前は以下のような問いを持っていました:
- レトロスペクティブをより効果的に行うにはどうすればよいか
- プロダクトの価値をどのように定義し、測定すればよいのか
- チームの自律性をどのように高められるか
これらの問いに対する答えを探しながら様々なセッションに参加しましたが、予想以上に多くの学びがありました。以下、テーマごとに私の気づきをまとめていきたいと思います。
価値とは何か
プロダクト開発において「価値」は常に議論の中心にありますが、それを具体的に定義し、測定することは簡単ではありません。この点について、特に印象的だったのはAmazonのFire Phoneの事例です。
Fire Phoneは、ジェフ・ベゾス自身が欲しがった製品だったそうです。しかし、結果として99セントまで値下げせざるを得ない状況となり、100億円相当の評価損を出すことになりました。確かどなたかがDiscordのliveチャンネルでおっしゃっていた「お客様がジェフ・ベゾスだった」という表現が非常に印象的でした。この事例は、いかに経営者が望む製品であっても、実際の顧客ニーズとマッチしていなければ価値を生まないという教訓を示していますね。
では、どのように価値を定義し、測定すればよいのでしょうか。カンファレンスを通じて学んだ重要なポイントは以下の通りです:
- 👎従来の誤解
- 納期/予算内で指示された仕様通りに作ることが価値である
- MVPは最小限の機能を持つプロダクトである
- 👍新しい視点
- 顧客にデリバリするのは「インパクト」である(単なるアウトカムではない)
- MVPはアイデアの検証のためのツールである。プロダクトの最小構成ではなく、検証することに価値がある。
- 価値は「AARRR (Pirate Metrics)」で測定できる
- Acquisition(獲得):どのように顧客を獲得するか
- Activation(活性化):初期体験の価値提供
- Retention(維持・継続):継続的な利用
- Referral(紹介):口コミの発生
- Revenue(収益化):ビジネスとしての成功
特に印象的だったのは、「機能がなければ文句を言ってくれるけど、充足しているときにはほとんど情報が取れない」という指摘です。 これは私たちの現場でも直面している課題で、ユーザーの声をより積極的に集める仕組みの必要性を感じました。
スプリントレトロスペクティブ
私が特に注目していたスプリントレトロスペクティブについて、Ryuzeeさんのセッションは多くの示唆に富んでいました。
まず、用語の使い方から指摘がありました。 「ふりかえり」という言葉は広すぎる概念で、文脈によって意味が異なります。「ふりかえり」はその意味を言い換えると"回顧"や"過ぎ去った過去を思い出す"となります。 アリストテレスの「範疇論」の"名前をつけることが知識の始まり"であったり、名前重要という概念から、スクラムの文脈では「スプリントレトロスペクティブ」という正確な用語を使うべきだということでした。 私の経験からも、用語の誤用は良くないと感じます。「レトロって振り返りでしょ?」とよく聞かれますが、そのように受け止められてしまうとスプリントレトロスペクティブはただの"振り返り会"となってしまいます。これではいけません。
実践面では、以下の点が特に重要だと感じました:
- 改善の原則
- 少数の項目に集中する
- スプリントの周期で検査可能な改善に'限定'する
- 改善はSMART(具体的、測定可能、達成可能、関連性がある、期限がある)など、具体的であるべき
- 重要な気づき
- 「改善のアイデアは妄想です」「実践してみるまでは、すべての企みは妄想」
- 改善とは仕事を安全にすること、簡単にすること。
- うまくいったこともpick upすること。なぜうまくいったのか。再現性はある?
- チェックリストを増やすような「改善」は要注意。スプリントゴールに「集中」できなくなります。
組織とマネジメントの視点
組織とマネジメントに関するセッションでは、特に「新人マネージャーサバイバルガイド」と「アジャイルチームが変化し続けるための組織文化」が印象的でした。
原田さんの新人マネージャーセッションでは、「便利で使いやすいマネージャー」という興味深い切り口が提示されました:
- マネージャーの本質的な役割
- マネージャーは「余裕リソース」である
- 不測の事態に備えるために存在する
- 例外の処理を担当する(ただし、例外が常態化したら仕組み化する)
- 実践的なTips
- 「自分でやった方が早い・正しい」は幻想である
- Management by Walking Around (MBWA)を実践する
- BADニュースは早めに共有できる関係性を築く
- 「ごめんなさい」も重要な仕事である
特に印象的だったのは「狼少年を叱ってはならない」という指摘です。マネージャーだけでなく全ての人が、ミスを叱るのはよくないですよね。
一方、小田中さんの組織文化に関するセッションでは、実際のプロダクト開発チームでの経験が共有されました:
- チーム立ち上げ期の工夫
- インセプションデッキの活用
- 「わからない」ことを明確にする
- 仮説検証ループを回す
- 実践から得られた学び
- 毎日少しずつのリファインメントが効果的
- 開発の速さは重要な価値である
- 顧客フィードバックへの素早い対応が信頼を生む
Open Space Technology
3日目に参加したOpen Space Technology(OST)のセッションは、カンファレンスの締めくくりのセッションでした。同時に確か2, 3?ほどワークショップがあり、OSTはその中でも参加人数の上限のないセッションでした。
OSTの基本原則は、参加者の自主性と自己組織化を最大限に活かすというものです。原則は以下の4つです:
- 「ここにやってきた人は、誰もが適任者である」
- 「何が起ころうと、それが起こるべき唯一のことである」
- 「いつ始まろうと、始まった時が適切な時である」
- 「いつ終わろうと、終わった時が終わりの時なのである」
1は"立場は関係ないよ"ということを言っていて、2は"予定していた議論でなくても良い"ということを言っているものと受け取りました。 こういった原則をあらかじめ同意しておくと、議論に突然参加したりしやすくなったなと思いました。
また、参加者の行動を規定する「移動性の原則(二本足の法則)」は以下のとおりです。:
- 参加者は自分で参加するセッションを選べる(参加しないという選択も可能)
- 議論に貢献できない/興味がないと感じたら自由に移動してよい
これは、興味がない・貢献できないと感じたら、別のセッションに移動してOKというルール。なんだか申し訳ない気もしましたが、実際やってみると、むしろ議論が活性化するんですよね。
この形式は、日々のスクラム実践にも応用できそうです:
- デイリースクラムでの発言の促し方
- スプリントプランニングでの議論の活性化
- スプリントレトロスペクティブでの改善案の出し方
OSTの経験は、チームの自己組織化について考えるよい機会となりました。形式的なルールは最小限に抑えながら、参加者の自主性を最大限に引き出す。これは、アジャイルな組織づくりの本質を体現しているように感じました。
個人的な気づき
正直に書くと、カンファレンス全体を通じて若干の物足りなさも感じました。
- 技術的な深掘りの不足
- ペアプログラミングの実践例
- 技術的負債への具体的な対処法
- デリバリーパイプラインの最適化方法
- 定量的なアプローチの不足
- コミュニケーションパターンの分析
ただし、この違和感自体が重要な学びだったかもしれません。私は技術面に偏った視点を持っていたのかもしれませんし、あるいはこれらの課題に対する需要があることの表れかもしれません。
今後に向けて
カンファレンスでの学びを踏まえて、以下のアクションを検討しています:
- スプリントレトロスペクティブの改善
- 改善項目を1-2個に絞り込む
- SMART(ないしは完了条件が明らか)な改善項目を作成することを徹底する(SMARTに書けた改善案のみをpick upする)
- 「妄想」を「検証」に変えるための仕組み作り
- 価値の可視化への取り組み
- AARRRメトリクスの導入検討
- ユーザーフィードバックの収集強化
- インパクトマッピングの活用
- コミュニケーションの改善
- ワイガヤ(自由闊達な議論)の促進
- BADニュースを共有しやすい雰囲気作り
- チーム間のコラボレーション機会の創出
おわりに
初めてのRSGTは、期待通りの学びもあれば、予想外の気づきもありました。 特に印象的だったのは、本間さんのClosing Talkでの「失われた30年の真因」についてのご指摘です:
- 過剰なプラン
- 過剰なアナリシス
- 過剰なコンプライアンス
これらは本当に必要なものだけを残し、「ワイガヤ」と「自由闊達」を重視しながら、しかし確実に価値を届けていく、バランス感覚の重要性を感じた3日間でした。
次回参加する機会があれば、今回得た気づきをもとに、より深い議論に参加できればと思います。